世界の声
【本文】
『全生命体へ通知します』
声は迷宮内だけでなく、地上の人間、動物、眠る子どもへ同時に届いた。
『準備期間を終了。世界機能を公開します』
日本各地で千を超える入口が顕在化した。道路が裂け、地下街の壁が扉へ変わり、山中に塔が立つ。海外地図には数え切れない光点が広がる。
『生命体へ技能を付与。迷宮攻略、所有、統合によるポイント制度を開始します』
続いて陣営選択が開く。人類、迷宮、中立。
選択肢の下にはポイント倍率が並び、人類と迷宮を選べば初回報酬が増える。中立には何の特典もない。争う側を選ばせるための配置だと湊は理解した。各国が同じ表示を見ているなら、最初の数分で判断を誤る者も必ず出る。
『人類陣営と迷宮陣営の競争を宣言します。未選択者は人類陣営へ登録されます』
湊は仲間と家族を見た。迷宮を守ってきた。それでも人間を敵にするつもりはない。
モモが空欄報酬へ触れると、一時的に《選択保留》が表示された。十基の地域隔離網にいる百二十人だけが、どの陣営にも登録されず残る。
遠くでサイレンが鳴り始めた。無線には道路陥没、病院停電、未知生物の目撃が次々に入る。
湊は英雄になる宣言も、世界を救う約束もしなかった。
「点呼。怪我人から受け入れる。安西さんは地上救助、小春は医療区画。岳、入口を守れ。朔、通信を切るな」
十基の扉が開く。
準備してきた日常が、崩れ始めた日常を受け止めた。
学校入口には近所の住民が二人、何が起きたのか尋ねに来ていた。名簿にはない。それでも未登録者枠は用意されている。
湊は二人を中へ招いた。
(次話へ)




