最後の一時間
【本文】
二十三時、協力者は指定された入口へ集まり始めた。
警報は鳴らさない。何も知らない住民を一斉に動かせば、理由のない混乱を起こす。安西たちは消防署で通常勤務を続けながら、車両をすぐ出せる向きへ並べた。
湊は第一迷宮の核前に立つ。十基の隔離率は全て九十九%以上。日本地図には千を超える灰色の点が明滅している。
二十三時三十分、通信網へ海外から断片的な軍事通信が入った。各国でも正体不明の地下入口が確認され、部隊が待機している。
日本国内でも警察無線が増えた。地図にない階段、閉じない扉、地下からの振動。まだ互いの通報が同じ現象だとは認識されていない。安西は消防本部へ、地下空間へ大人数で入らないことと、入口周辺の住民を先に退避させることだけを伝えた。
二十三時四十五分、冷たい声が《陣営選択》という項目を追加した。人類、迷宮、中立。説明も選択期限もない。
湊は触れず、全員へ同じ指示を送る。表示を選ばない。入口から離れない。家族を一人にしない。
二十三時五十九分、モモが目を覚ました。
『くる。こえ、ぜんぶとる』
第十迷宮の空台座が黒く染まり、旧管理音声が途切れる。ガンゼたち冠位個体が同時に地上側の扉を閉じた。
秒針が十二を指す。
世界中のあらゆる音より近い場所で、冷たい声が息を吸った。
返事は十基から順番に届いた。声が震える者もいたが、持ち場を離れた者はいない。全員が時刻と名前を読み上げた。
冬一は定時通信を一分間隔へ縮め、応答がなければ隣接入口から確認者を送る順番を読み上げた。
時計の秒まで合わせた。
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