百二十人の食卓
【本文】
三回目の避難訓練には、協力者を含む百十八人が参加した。
全員へ迷宮の真相を話したわけではない。大規模災害を想定した地下避難施設として説明し、参加を断る自由も伝えた。
入口通過は二十一分。点呼後、第四迷宮から食料を第九迷宮へ送り、千鶴たちが百二十食の炊き出しを行う。
米は炊けても、配膳で列が詰まった。高齢者用の柔らかい食事、アレルギー、子どもの量。全員へ同じ一杯を渡すだけでは食卓にならない。
炊飯に使った水と燃料も予想を上回った。洗い物を減らすため食器を一枚にすれば、汁物を配れない。使い捨て容器は保管場所とごみ処理が必要になる。千鶴は一食の献立だけでなく、調理から片づけまでに消える物資を全て表へ加えた。
文が芋を煮て、佳乃が児童の札を確認し、真理が食べられない物を聞き取る。循環粘体は洗い場へ水を運び、ゴーレムは熱い鍋を人の列から離して移動させた。
最後の一人が食べ始めた時、最初の人は片づけを始めていた。食事時間を二組に分け、医療担当だけは交代で取ることにする。
湊は百二十人が並ぶ景色を見た。収容人数という数字には、百二十通りの体調と事情がある。
余った二食は未登録者用として保温された。
訓練終了後、そのうち一食を遅れて到着した配送員へ渡すことになった。
誰も来なければ担当者が食べ、捨てない。余裕を持つことと、無駄にすることを同じにしないための決まりだった。
調理担当も食べなければ次の食事を作れない。千鶴は最後ではなく交代で休憩する表へ直した。
休憩も避難所を維持する大切な仕事として扱うことにした。
(次話へ)




