繭の中の返事
【本文】
公開まで三十日となった日、澪の繭から三度の振動が返った。
小春が決めた合図だった。一度は異常なし、二度は痛み、三度は外へ出たい。繭を開けば《遅延再生》の時刻も再び動く。
湊たちは第七迷宮へ集まった。澪は意識を保ち、外の会話を全て聞いていた。自分だけ止まったまま準備が進むことに耐えられないという。
環は一日につき一時間だけ繭を開き、その間に返還される損傷を治療する案を出した。時間は掛かるが、モモとネーヴェの負担を計測できる。
最初の一時間で、古傷の一部が戻った。小春が止血し、ネーヴェが臓器を薄い糸で支える。モモは全体治癒を使わず、毒素の除去だけを担当した。
繭の外へ出た澪は、日差しを眩しそうに見た。地上では数日しか経っていないのに、自分だけ季節から切り離された感覚があるという。湊は励ます言葉を探さず、準備記録と仲間の報告を一冊ずつ渡した。澪は抜けた時間を読み、自分が決めるべき箇所へ印を付けた。
処置後、澪は自分の足で第二迷宮へ入り、緊急承認を三人へ追加した。小春、環、千鶴。自分が再び眠っても、避難通路を閉じさせないためだ。
「治るまで待つんじゃない。治しながら残す」
澪は繭へ戻った。
残余時間は二十七日と二十三時間。完全治癒には遠い。それでも一時間分の傷だけは、もう未来へ先送りされていなかった。
次に繭を開く時刻は、本人を含む四人で決めた。体調が良くても延長せず、悪ければ予定前でも中止する。
繭の横には時計と予定表を置き、澪が目覚めた時に失った時間を自分で確認できるようにした。
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