町へ伸びる無線
【本文】
冬一と朔は、十基の迷宮を中継点にして町内無線網を作った。
スマートフォンが止まっても、学校、消防、病院、浄水場、倉庫を短距離無線で結ぶ。迷宮内部は電波を反射するため、各入口に人間の中継担当が必要だった。
最初の試験では、病院からの声が廃駅で二重に聞こえた。第十迷宮の円形室が、古い通信記録まで拾っている。現在の連絡と区別するため、日付と時刻、発信者名を必ず最初に読む規則を決めた。
二重音声には、数日前の安西の報告まで混ざっていた。誤って救助隊を出せば、別の現場が手薄になる。朔は記録音声を低い電子音から始め、現在通信には呼びかけと応答を必須にした。返事がない一方通行は、緊急情報として扱わず確認班を送る。
冬一は子どもや高齢者にも使えるよう、周波数を三つに絞った。赤は救命、青は物資、白は定時連絡。難しい暗号は使わない。
結衣が学校入口から試験連絡をする。
『こちら白。雨宮結衣。十八時。異常なし』
十基を巡り、同じ声が工場の受信機へ届いた。
冬一は成功を喜ぶ前に、送信できない人のための伝令経路を地図へ足した。機械は壊れ、電池は切れ、声を出せない怪我人もいる。
公開まで三十九日。
平穏な町の地下で、使われないことを願う通信網が毎夕動き始めた。
予備電池には交換日を書き、毎週一度全受信機を動かす。使わない機械ほど、必要な日に壊れているからだった。
通信担当が眠る時間も必要だった。夜間は二人一組で交代し、聞き間違いを防ぐため、受信内容を必ず復唱して紙へ残す。
記録紙にも連番を振り、欠けた連絡がすぐ分かるようにした。
(次話へ)




