畑を地下へ運ぶ
【本文】
第四迷宮の芽の部屋へ、堀越文が最初の土を持ち込んだ。
畑一枚分を移すのではない。表土、深い土、落ち葉、堆肥を別々の箱に入れ、虫や菌も含めて状態を調べる。
迷宮の床へ土を広げると、翌朝には表面が白く乾いた。水を与えても保たない。照明は明るくても、植物が必要とする光とは違っていた。
循環粘体へ水やりを任せると、一か所へ集まりすぎて苗を倒した。文は細い溝を掘り、水が根元へ均等に届くよう直す。便利な生き物にも畑の知識はない。人間が育て方を示し、毎日状態を見なければ、能力だけでは一株も実らなかった。
文は失敗した苗を捨てず、根を洗って原因を見た。温度は一定すぎ、風がなく、夜もない。
《領域編集》で昼夜を作るには大量のポイントが必要だった。そこで鉄平が地上の送風機を運び、朔が時間制御を組む。電力は工場の発電機から供給し、迷宮には保温だけを任せる。
二度目に植えたジャガイモは、一週間後も葉を保った。
収穫できる保証はない。百二十人分には程遠い。それでも文は、成功した一株より失敗の記録を大切にした。
「畑は命令した日に育つもんじゃない」
公開まで四十八日。
湊たちは備蓄を増やしながら、間に合わない作物を急かさず待つことも覚え始めた。
土の下では小さな根が伸びた。文は成功とは呼ばず、生き残った段階だと言う。収穫と次の種まで繋がって初めて畑になる。
地上の畑と地下の畑で同じ苗を育て、葉の色、土の乾き、根の長さを毎朝比べた。結果が違えば原因を一つずつ変え、迷宮の力だけに答えを求めない。
それを続けた。
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