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世界の声が鳴る前に、俺たちは十のダンジョンを攻略していた――崩壊した日本で家族を守る高校生たちの拠点防衛記  作者: 竜太郎


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澪の二十九日

【本文】

 澪の《遅延再生》は、残り二十九日を切った。

 小春が観測すると、過去の損傷は消えず、時間の膜に包まれている。期限が来れば、裂けた臓器と失血が同時に現在へ戻る。

 第七迷宮のネーヴェなら治療できる可能性があった。しかし一度に返還すれば、治療を始める前に命が尽きる。

 環は損傷を少しずつ現在へ戻し、その都度治療する案を立てた。澪自身の同意を取り、一日分だけ膜を薄くする。

 直後、脇腹が裂けた。モモが光り、ネーヴェの糸が血管を繋ぐ。小春は治療が終わるまで次を戻させなかった。

 一日分の処置に六時間かかった。単純計算なら期限へ間に合わない。モモも縮み、ネーヴェの腕にも疲労が残る。

 治療後の血液量、体温、痛みを環が記録した。戻った傷は一日分でも均等ではなく、最初の十分に出血が集中している。《遅延再生》は時間を順番に返すのではなく、重い損傷から押し出す可能性があった。次の処置には輸血と保温、複数の止血経路が必要になる。

 澪は全て一度に戻すと言った。湊は拒んだ。本人の覚悟だけで、治療する側へ不可能を押しつけることはできない。

 ネーヴェが白い繭を作り、澪の体を包んだ。内部では《遅延再生》の時刻だけが停止する。ただし繭に入る間、澪は迷宮所有権を操作できない。

 治ったのではない。二十八日という残り時間を止め、治療方法を探す猶予を作っただけだった。

 澪は自分のために治療班を消耗させたくないと言う。小春は、治療方法を決めるのは患者一人ではないと返した。

 処置に使った器具と薬の量も記録し、次回分を別の箱へ揃えた。

(次話へ)

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