百二十人の入口
【本文】
地域隔離網が完成しても、百二十人を安全に入れられるとは限らなかった。
最初の訓練では家族と協力者三十一人だけを集めた。入口は学校、工場、薬局の三か所。誰がどこから入り、内部のどの寝台へ向かうか、色と番号を割り当てる。
開始直後、問題が続いた。冬一が階段で前の人を待ち、後ろが詰まる。薬局入口では保冷箱が扉へ引っかかった。学校から入った子どもが母親と別の通路へ進み、泣き出した。
ゴーレムを案内役にしても、言葉だけの指示は伝わらない。千鶴は床へ色付きの線を引き、藤代佳乃は子ども用に動物の印を加えた。安西は入口ごとに一人、流れを止める権限を持つ責任者を置く。
医療区画までの途中には、歩けない人を乗せる四脚型ゴーレムを二体待機させた。だが一体へ人が集中し、もう一体は空のままになる。佳乃は希望者が自分で並ぶ方式をやめ、入口担当が状態を見て割り当てる札を作った。岳は通路幅を測り、二体がすれ違える場所へ待機線を引いた。
二回目は十三分で全員が到着した。しかし点呼では一人多い。薬局の客だった高齢女性が、訓練と知らず避難者について入っていた。
追い返さず事情を説明し、体調を確認して地上へ送る。入口が開けば、計画外の人も助けを求める。それを失敗ではなく前提にしなければならない。
湊は名簿へ「未登録者枠」を二十人分追加した。
百二十という数字を埋める訓練ではない。名前のない一人が混ざっても、誰も見失わない仕組みを作る訓練だった。
目標時間だけを縮めるために走らせることはしなかった。転倒者を出さず、途中で具合の悪い人を止められる速度を基準にする。
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