十番目の空欄
【本文】
黒い根は湊ではなく、モモだけを狙った。
湊は《帰還標》へ意識を集中するが、列車の扉は閉じている。《領域編集》も第十迷宮には届かない。
モモが腕の中から跳び、台座へ体を広げた。
『つなぐ。みんな、よぶ』
第一から第九までの迷宮が、湊の意識へ一本ずつ現れる。リブラの保管室、ベルクの炉、セレネの冷気、ネーヴェの治療糸、アクアの水路、オルドの物流路。人と冠位個体が保守した機能が白い線となって集まった。
湊は《分配》で九基の余力を借り、第十迷宮へ流す。
借りた力は無限ではない。学校の保管室で照明が薄れ、工場の炉が止まり、薬局の冷気が弱まる様子まで意識へ届く。湊は一基から大量に奪わず、設備が停止しない最低線をモモと確かめながら少しずつ集めた。
外では各担当者が異常を記録し、手動設備へ切り替えていた。
台座が起動し、黒い根を壁際へ押し戻した。消滅はしない。封鎖区画へ隔離され、扉が閉じる。
『地域隔離網、十基接続を確認』
『初回地域管理報酬を付与します』
報酬欄にはスキル名もポイントもなく、空白だけが表示された。
湊が触れても反応しない。モモにも意味は分からなかった。
列車が廃駅へ戻る。外では一時間ではなく、五分しか経っていない。
仲間たちの端末へ《地域隔離網十/十》が共有された。収容上限は百二十人へ増え、十基間の避難通路が開く。ただし維持には人手、物資、毎日の点検が必要だった。
湊は空欄の報酬を台帳へそのまま残した。分からない力を都合よく使わないためだ。
公開まで残り六十九日。澪の残余時間は二十九日。
十個揃えても、世界はまだ救われていなかった。
(次話へ)




