病院地下の静寂
【本文】
深夜零時、県立病院の機械室に『0/5』の扉が現れた。
湊、小春、環、安西、澪が入る。内部では音がほとんど消え、呼吸も足音も遠く感じた。
通路の両側に透明な部屋が並び、中には眠る影が横たわっている。人ではない。傷ついた影獣、殻の割れた重殻、翼を失った未知の個体。ここは傷ついたモンスターたちを眠らせる治療区画だった。部屋ごとに温度と湿度が違い、床の溝を淡い光が流れる。壁の治療記録は古いものほど途中で黒く途切れ、侵食後は一体も治療を終えられていなかった。
小春は警戒しながら最初の部屋へ近づく。重殻の傷口には黒い根が入り、治癒を妨げていた。敵を治せば、外へ出て人を襲うかもしれない。放置すれば治療区画全体が侵食される。
透明壁の向こうで重殻が目を開ける。青い光は弱く、威嚇する力も残っていない。第一迷宮で岳を弾き飛ばした個体と同じ種だと分かっていても、小春には傷ついた患者に見えた。安西は出口側へ立ち、治療と警戒を両立させる。
湊は扉の制御を確認した。治療後も隔離室から出さず、冠位個体の判断を待つ設定にできる。
五人は根の除去を始めた。環が器具を消毒し、小春が位置を示す。安西は暴れた際の拘束具を準備する。澪と湊が殻を支えた。
治療を終えた重殻は目を開けたが、襲わなかった。透明壁へ頭を寄せ、低く一度鳴く。
最深部にいた冠位個体《白衣母ネーヴェ》は、無数の細腕で傷ついた個体を縫い続けていた。自分の背中にも黒い根が広がっている。
小春は迷わず、最後まで残された患者としてネーヴェを指した。
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