薬を冷やすもの
【本文】
第六迷宮の入口は、薬局の冷蔵庫を空にしてから開いた。
湊、小春、環、澪が入る。内部は白い霧に覆われ、棚のような氷柱が幾列も続いていた。温度は低いが凍傷になるほどではない。
床を小さなスライムが滑っている。《冷却粘体》と表示された。モモが触れると青くなり、くしゃみのように体を震わせる。
最深部では、半透明の巨鳥が翼を広げていた。《薬守セレネ》。その胸へ黒い針が何十本も刺さり、冷気が不規則に漏れている。周囲の薬草は凍結と解凍を繰り返し、枯れかけていた。
小春の《状態観測》には、針一本ごとに異なる毒の表示が出た。順番を誤って抜けば混ざり、セレネ自身が毒源になる。
環が現実の薬品管理と同じ要領で毒を分類する。酸性、アルカリ性、熱で変質するもの。色だけに頼らず、番号と位置を二重に記録した。
氷柱の間には、地上に存在しない薬草も育っていた。小春は効能を推測せず、一株ごとに写真と温度を残す。未知の薬を希望だけで患者へ使えば、それは治療ではなく実験になる。環も採取を最小限に留めた。
澪が巨鳥の翼を支え、湊が小春の観測を全員へ分ける。一本抜くたび冷却粘体が毒を包み、離れた氷室へ運んだ。
最後の針が抜けると、セレネの翼から穏やかな冷気が流れた。枯れかけた薬草の葉から霜が溶け、緑色が戻っていく。冷却粘体は毒を収めた氷室の前へ集まり、扉の隙間を自分たちの体で塞いだ。消せない毒は監視し続ける必要がある。
医薬品を増やす力はない。だが適温を保ち、毒や劣化を見分け、遠隔の避難所へ安全な保冷経路を作れる。
第六迷宮が接続され、地域隔離網は六/十となった。
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