鉄を食べる炉
【本文】
第五迷宮は、榊原家の整備工場が閉まった夜に開いた。
湊たちと鉄平が地下へ降りると、熱気と油の匂いが押し寄せる。巨大な炉を囲み、鉄製の人型が十体並んでいた。どれも胸が空洞で、動かない。
床には壊れた工具や錆びた部品が散らばる。炉の投入口へ一つ入れると、青い炎が上がり、同じ材質の滑らかな板となって出てきた。
「修理工場じゃなく、素材を戻す炉か」
鉄平は釘、アルミ缶、切れた銅線を種類別に入れた。混ぜると黒い塊になり、分ければ再利用できる素材へ戻る。便利だが、燃料として迷宮ポイントを消費する。
炉の横には、投入した物の重量と戻った素材量が刻まれた。必ず一割ほど減っている。失われた分は炉の熱とゴーレムの動力になるらしい。鉄平は無料の再生装置ではないと全員へ伝え、廃材にも優先順位を付けた。
奥から重い足音が響いた。
胸に赤い炉を持つアイアンゴーレムが現れる。右腕は槌、左腕は鋏。表示名は《炉守ベルク》。黒い根が片脚へ絡み、進むたび床へ火花を散らしていた。
ベルクは敵ではなく、根を切る道具を作ろうとしていた。だが炉へ投入する素材が足りず、同じ動きを繰り返している。
鉄平は工場から廃スプリングと摩耗した刃を運んだ。炉で再生し、岳が《荷重固定》で押さえ、ベルク自身が鋏へ組み込む。
新しい刃が黒い根を断ち切った。切断面は炉の火で焼かれ、ようやく動きを止める。
ベルクは胸の炉から小さな火を取り出し、十体の空洞へ一つずつ分ける。人型たちの目が青く灯った。
迷宮から初めて、味方として働くゴーレムが生まれた。
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