十個という目標
【本文】
第一から第六までの迷宮位置を、一枚の地図へ書き込んだ。
山中、澪の移動迷宮、温泉街、学校、整備工場、薬局。線で結ぶと、湊たちの生活圏を包む歪な輪になる。
第三迷宮の保守記録には、隔離槽が十基揃うと地域管理網を形成できるという断片が残っていた。機能の詳細は欠けているが、個別の収容上限を越え、空気、水、避難通路を相互に融通できる可能性がある。
「あと四つ」
岳が地図を見た。
十個攻略すれば最強になれるわけではない。むしろ全ての保守責任を負う。黒い根が同時に現れれば、今の人数では対応できない。
安西は消防の点検記録として入口周辺の地図を預かり、冬一は連絡時刻と周波数を統一した。家族も、ただ避難させられる側ではなく、それぞれができる保守作業を一つずつ受け持つ。
湊は目標を三段階に分けた。待機中の三基を壊さず調査する。残る入口を探す。十基を繋ぐ前に、家族と安西たちへ運用を共有する。
澪は自分の残余時間を紙へ書いた。四十三日。十基を揃えることが治療につながる保証はない。それでも迷宮本来の管理権を取り戻せば、《遅延再生》の仕組みを調べられるかもしれない。
夜、第一迷宮の壁へ新しい表示が現れた。
『地域隔離網 接続数三/十』
同時に、日本地図のような輪郭へ千を超える小さな点が灯る。ほとんどは灰色だが、いくつかは既に赤く点滅していた。
湊が詳細を開こうとすると、冷たい声が表示を閉じた。
『公開時刻まで、残り八十三日』
世界はまだ平穏だった。
その平穏に期限があることを、六人と一匹だけが知った。
(次話へ)




