地上の十分間
【本文】
地上では、四人が消えてから僅か三十分だけが過ぎていた。
内部では二時間近く行動していたため、時間の流れが違うことが初めて確認された。安西は戻った高校生たちの顔を一人ずつ見て、負傷の有無を確かめる。
浴槽の逆流は止まり、黒い水も透明へ戻っていた。配管点検では原因が見つからない。それでも床下の温度は十度近く下がっている。
管理者は怯えながらも、湊たちが入る前後の水温と時刻を帳面へ記していた。安西はその記録を預かり、採取した水を消防本部と保健所へ別々に送る。どちらか一方で紛失しても検査結果が残るようにした。
部下には高校生の名を無線で流させなかった。状況が確定するまで、噂から守る必要があると判断したためだった。
湊は安西へ、見たことをすべて話した。迷宮、黒い獣、冠位個体、二種類の声。信じてもらうため、循環粘体を一体だけ入口近くへ呼んだ。
半透明の小さな塊は、割れた配管から漏れる水を吸い、排水口まで運んだ。
安西は長く黙ったあと、署へ報告すると答えた。ただし子どもたちを危険人物として扱わせないため、自分が最初の目撃者になる。
「次から、突入前に俺へ連絡しろ。許可が出なくても連絡はしろ」
命令ではなく、置いていかれる側の頼みだった。
共同浴場は配管修理を理由に閉鎖を継続し、周辺住民には地熱による一時的な異常と説明された。完全な嘘ではない。
帰り際、ガラス戸の向こうにガンゼの影が一瞬だけ映った。安西にも見えた。
消防士は敬礼するように顎を引いた。
迷宮の内側で、岩の獣も頭を下げた。
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