湯守の冠位
【本文】
井戸から現れたのは、岩と鉄管を纏った四足獣だった。
背中の炉から蒸気を噴き、折れた石柱の一部を角としている。表示名は《湯守ガンゼ》。第三迷宮の冠位個体だった。
ガンゼは四人を襲わなかった。黒い根が残る水路へ顔を向け、低く唸る。根を侵入者だと認識しているらしい。
だが冷たい声が命令を下した。
『攻略者を確認。冠位個体へ排除を命じます』
ガンゼの背に黒い紋様が浮かび、青い目が赤く変わる。巨体が意思に逆らうように震えた。
湊は破壊ではなく制圧を選んだ。背中の紋様だけを消せば、戦わずに済む可能性がある。
ガンゼの前脚が床を叩くたび、沸騰した湯が柱のように噴き上がる。四人は石柱の陰を移り、噴射位置を一つずつ記録した。攻撃は激しいのに、巨体は循環粘体のいる水路だけを踏まない。命令へ抗いながら、守る対象を避けている。
澪の槍が蒸気弁へ届いたときも、ガンゼは角で弾くだけで体を貫かなかった。その迷いが、湊に紋様を狙う確信を与えた。
澪が正面で注意を引き、朔が蒸気の周期を読む。噴射直後の三秒だけ背中へ近づける。小春はガンゼの脚に古い亀裂を見つけ、そこを避けるよう指示した。
湊は岳のいない穴を感じた。それでも三人の力を《分配》で繋ぎ、石柱からガンゼの背へ跳ぶ。
黒い紋様へ手を触れた瞬間、冷たい声が頭の中で膨れ上がった。
『所有候補者による命令拒否を確認。処罰――』
『保守要員への干渉を禁止します』
別の声が割り込み、紋様が砕けた。
ガンゼは湊を振り落とさず、ゆっくり膝を折る。
井戸の奥から透明な迷宮核が浮上した。
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