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世界の声が鳴る前に、俺たちは十のダンジョンを攻略していた――崩壊した日本で家族を守る高校生たちの拠点防衛記  作者: 竜太郎


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倒さない戦い

【本文】

 影獣を水門へ誘い、澪が先頭の一体を槍で押し止めた。

 湊は《分配》で朔の反響探査を借りる。湯気の向こうでも、床を伝う振動から残る三体の位置が分かった。小春は循環粘体の状態を観測し、弱った個体を安全な水路へ移す。

 影獣を倒せば青い結晶とポイントになる。だが崩れた黒い体が湯へ溶けるたび、水温が上昇した。

「ここで殺すほど悪化する」

 湊は迷宮核の所有者ではない。それでも《領域編集》を壁へ試すと、水門の一部だけが僅かに動いた。モモが肩で金色に光り、第三迷宮の古い権限を補っている。

 石扉を開き、横の乾いた通路へ影獣を追い込む。澪が最後尾を槍で払い、朔が落ちていた鎖を扉へ巻いた。足音が完全に消えるまで、鎖から手を離さない。

閉じ込めた先に別の出口があることも、反響探査で確認した。永遠に餓えさせる檻ではなく、迷宮の外周へ戻れる迂回路だ。影獣は扉を二度引っかいたあと、遠ざかっていった。

 四体を閉じ込めると、湯の流れが安定した。

『討伐未達成。報酬は発生しません』

 冷たい声が響く。

 続いて、掠れた別の声が聞こえた。

『循環経路の保全を確認。保守値を付与します』

 湊たちの視界へ、それぞれ五十ポイントが加算された。討伐以外でも迷宮を守れば評価される。初めて確認できた規則だった。

 澪は閉じた扉を見つめた。

「あれも、ここを壊したくて動いてるわけじゃないのかもしれない」

 敵を逃がした不安はまだ残る。それでも四人は、倒さずに道を開いたという事実を記録した。

 最深部へ続く階段から、熱い風が吹き上がってきた。

(次話へ)

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