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世界の声が鳴る前に、俺たちは十のダンジョンを攻略していた――崩壊した日本で家族を守る高校生たちの拠点防衛記  作者: 竜太郎


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消防士が見た四人

【本文】

 消防士の安西史郎は、閉鎖された共同浴場の前で四人の高校生を見つけた。

 早朝、床下から音がするという通報を受け、所有者立ち会いで確認に来たところだった。管理者は鍵を開けた覚えがないと言うが、ガラス戸は内側から僅かに曇っている。

 高校生たちは遊びに来た格好ではなかった。ヘルメット、救急箱、無線機。少女の一人は周辺住宅と避難経路を書き込んだ地図を持っている。

「中へ入る許可をもらっています」

 雨宮と名乗った少年が書面を見せた。だが施設調査なら消防が先だ。

 安西が戸を開けると、受付と脱衣所しか見えない。少年たちは浴室の奥に白い数字があると言う。安西には古いタイル壁しか見えなかった。

 四人が近づいた瞬間、壁が水面のように揺れた。

 安西は少年の肩を掴んだ。指先が見えない膜へ沈み、骨まで冷える。引き戻そうとしたとき、桃色の小さな生き物が鞄から顔を出した。

『あつい。もう、いっぱい』

 床下で配管が破裂するような音が響く。浴槽の水が逆流し、黒く濁った。

 高校生たちは驚いていた。それでも逃げなかった。一人が管理者を外へ連れ出し、一人が消防へ追加連絡を頼み、残る二人が壁の前で装備を確認する。

安西は無謀な子どもだと思った。同時に、彼らがここで起きることを自分より知っているとも認めた。

腰の無線へ手を伸ばし、部下へ周辺道路の確保と住民への声掛けを命じる。正体が分からなくても、避難経路を作ることなら消防の仕事として始められた。

「十分ごとに戸を叩け。返事がなくても、俺はここにいる」

 少年は一度深く頭を下げ、三人の仲間と壁の向こうへ消えた。

(次話へ)

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