三つ目の声
【本文】
青い結晶を失っても、朔は記録した波形から探索装置を組み直した。
第一迷宮と澪の迷宮。それぞれの核は異なる周期で信号を出している。二つを打ち消すよう調整すると、北西から弱い第三の反応が残った。
場所は山間の小さな温泉街だった。
湊たちはすぐに攻略へ向かわず、昼間に現地を確認した。閉館した旅館、営業中の土産物店、十数軒の住宅。入口が地盤沈下を起こせば、多くの人を巻き込む。
平日の観光客は少なかったが、翌日は団体客の予約があると聞いた。旅館の送迎バスが二台入り、狭い県道へ車が並ぶ。異変が起きてからでは避難誘導も消防車の進入も難しい。
川沿いを歩くと、モモが古い共同浴場の前で止まった。建物は二年前から使われていない。曇ったガラス戸の奥に、白い数字『0/4』が浮かんでいる。
澪にも数字が見えた。二人の所有者が近づくと『2/4』へ変わる。
「残り二人。誰を連れていく?」
岳の負傷はまだ完治していない。小春の観測と朔の探査は必要だが、二人とも入れば地上に能力者が残らない。
湊はその場で決めなかった。旅館の避難経路、病院までの距離、警察と消防の位置を調べてから戻る。
夕方、共同浴場の管理者へ連絡を取り、床下の異音を理由に立入許可を求めた。翌朝、管理者立ち会いで確認する約束を得る。
夜十一時五十分。
湊の頭に、所有通知とは違う声が響いた。
『第三隔離槽、圧力上昇。保守要員を要請します』
続いて、いつもの冷たい声がそれを塗り潰す。
『未攻略迷宮を確認。初回攻略報酬が発生します』
二つの声は、同じものではなかった。
眠っていたモモが跳ね起き、金色の点を激しく震わせた。
(次話へ)




