十一秒の合鍵
【本文】
偽通信を見分けるため、群馬と九州は毎回変わる確認符号を作った。
前日の水質値の末尾、壁信号の欠損位置、双方だけが知る失敗記録を組み合わせ、本文とは別の十一秒間隔で送る。
通信原文、変換文、判断理由は別々に保存し、後から意味を整えない。送らなかった項目も空欄ではなく《非開示》または《未確認》と記した。
符号が一致しても発信者の善意までは証明しない。通信経路が乗っ取られていないことだけを確認する。
世界の声が即時同盟、陣営登録、所有権共有を勧めても選ばない。保守信号と人間の交渉を同じものとして扱わず、一通ごとに本人性と目的を確認する。
県庁と各避難所へ共有するのは生活へ影響する結果だけとし、相手の座標や所有者情報を掲示しない。通信担当も二人交代で休息を取る。
世界の声は《暗号化は陣営協力を阻害します》と警告した。二つの圏は警告ごと記録し、合鍵を毎日変えた。
使い終えた符号は通信端末から消し、紙の封印袋へ二人の署名つきで保管する。片側で誤りが出た日は本文を開かず、その回を欠番にした。一致は善意の証明ではないという注意書きも毎回表示し、合鍵を所有者認定や命令権の根拠に使わせなかった。
封印袋の閲覧も二人立会いとし、七日後の更新監査までは再利用しない規則を加えた。
書き写しの控えは作らず、担当交代時は未使用分だけを引き継ぐ。破損や開封跡があればその日の交信を中止する。
返事の期限を過ぎても敵対判定せず、通信障害、生活作業、再確認の時間を残した。遠距離の相手へ、近くにいる者以上の説明義務を課さない。
(次話へ)




