種と弁の交換
【本文】
九州側が求めたのは血獣の魔石ではなく、二重弁と沈殿槽の設計図だった。群馬側は地熱を使わない苗床保温の手順を求める。
設計図を丸ごと渡せば、迷宮構造や地域座標まで推測される。奈々は寸法を一般化し、材料、圧力、失敗例だけを抜き出した。
通信原文、変換文、判断理由は別々に保存し、後から意味を整えない。送らなかった項目も空欄ではなく《非開示》または《未確認》と記した。
九州からは火山灰を混ぜた保温床の記録が届く。文は灰をそのまま土へ入れず、酸性度と重金属検査の手順だけを受け取る。
世界の声が即時同盟、陣営登録、所有権共有を勧めても選ばない。保守信号と人間の交渉を同じものとして扱わず、一通ごとに本人性と目的を確認する。
県庁と各避難所へ共有するのは生活へ影響する結果だけとし、相手の座標や所有者情報を掲示しない。通信担当も二人交代で休息を取る。
物資を瞬間移送するのではない。互いの土地で再現できる知識を、危険条件つきで交換した。
双方は小型模型で先に試し、圧力と温度が基準を越えた例は成功数へ入れなかった。九州の灰は群馬の土壌と成分が違い、群馬の弁材は九州の熱で変形する。使えなかった条件も翌日の返答へ含め、設計を万能な正解として広めないことにした。
文は苗床の一角だけを試験区にし、十八個の種芋や既存の比較畝へ灰を混ぜない。失敗しても食料計算を悪化させない規模に抑えた。
返事の期限を過ぎても敵対判定せず、通信障害、生活作業、再確認の時間を残した。遠距離の相手へ、近くにいる者以上の説明義務を課さない。
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