同じ傷の証明
【本文】
本人性を確かめるため、双方は迷宮核の秘密ではなく、故障時にだけ出る保守記録を一つずつ提示した。
群馬は血獣封鎖後の《地上補助槽・点検周期七日》、九州は《火山灰流入・地熱弁二重閉鎖》の時刻だけを送る。
通信原文、変換文、判断理由は別々に保存し、後から意味を整えない。送らなかった項目も空欄ではなく《非開示》または《未確認》と記した。
朔が形式を比べると、文字間の欠損位置と冷たい声による上書き順が一致した。世界の声では作れない古い管理記録の癖である。
世界の声が即時同盟、陣営登録、所有権共有を勧めても選ばない。保守信号と人間の交渉を同じものとして扱わず、一通ごとに本人性と目的を確認する。
県庁と各避難所へ共有するのは生活へ影響する結果だけとし、相手の座標や所有者情報を掲示しない。通信担当も二人交代で休息を取る。
相手の思想や善意は分からないままでも、同じ壊れた仕組みを扱っている証明にはなった。
照合には時刻の末尾、欠損した二文字、復旧後に残る誤差だけを使い、設備番号と位置は互いに伏せた。原本と受信文の検算値も別に残し、後日の改変を見抜けるようにする。一致したのは記録形式であり、目的や政治判断まで同じだとは結論づけなかった。
偶然一致の可能性も欄外へ残し、次の二通で別の故障記録を照合するまでは《暫定一致》と表示した。
判定者名と日時も残した。
返事の期限を過ぎても敵対判定せず、通信障害、生活作業、再確認の時間を残した。遠距離の相手へ、近くにいる者以上の説明義務を課さない。
(次話へ)




