所有者は二人いる
【本文】
救急車が到着する前に、迷宮の入口は消えた。
図書館職員は搬送され、命に別状はないと診断された。傷の説明は、地盤沈下で突き出た鉄筋によるものとして処理された。
澪は病院への同行を拒んだ。モモの治癒で表面の傷は閉じたが、《状態観測》には古い損傷が残っている。
湊は人目を避け、第一迷宮のことを話した。すると澪はしばらく黙ったあと、自分も迷宮を一つ所有していると明かした。
三週間前、廃トンネルで黒い獣に襲われた。逃げ道を失い、最深部の冠位個体を偶然崩れた天井の下敷きにして倒した。初回報酬で《遅延再生》を選び、致命傷を先送りして地上へ戻った。
「治ったと思っていた」
「治ってない。支払いを四十九日後に延ばしてるだけ」
小春は厳しく告げた。脅すためではなく、時間を無駄にさせないためだった。
澪の迷宮は入口が定まらず、本人にも呼び出せない。収容人数は三人。保有ポイントはほぼ使い切っている。
何に使ったのか尋ねると、澪は飲料水と寝床、それから外から見えない扉だと答えた。誰にも頼れず、再び入口が現れた日に備えて一人分の避難所を作っていた。
「第二迷宮の信号だと思って追っていたものは、君の所有迷宮だったのか」
朔が青い結晶を見せると、澪の折れた槍の石突きが同じ周期で光った。
第一迷宮の核が、近くの所有済み迷宮へ反応していたのだ。
融合すれば収容上限が増えるかもしれない。しかし澪の同意なしに核を奪うことはできない。
湊は協力を求めた。
澪は即答しなかった。家族はいない。避難させたい相手もいないと言う。
それでも帰り際、モモへ魚肉ソーセージを一本置いていった。
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