返事のない照合
【本文】
九州方面から届いた《所有者照合要求》は、一秒未満で消えた。朔は同じ座標へ直接返信せず、旧小学校の壁信号へ無記名の確認符号を流した。
内容は地域名でも氏名でもない。第六補助槽、十一秒周期、封鎖待機という三つの語順だけを変え、相手が同じ保守信号を読めるか確かめる。
通信原文、変換文、判断理由は別々に保存し、後から意味を整えない。送らなかった項目も空欄ではなく《非開示》または《未確認》と記した。
六時間後、《第六は番号ではない。補助槽種別》という短い返答が来た。こちらが公開していない解釈だった。
世界の声が即時同盟、陣営登録、所有権共有を勧めても選ばない。保守信号と人間の交渉を同じものとして扱わず、一通ごとに本人性と目的を確認する。
県庁と各避難所へ共有するのは生活へ影響する結果だけとし、相手の座標や所有者情報を掲示しない。通信担当も二人交代で休息を取る。
返事は相手の身元を証明しない。それでも壁の声を偶然拾っただけではない者が、遠くにいると分かった。
確認符号への応答窓は二時間だけ開き、旧小学校の壁電位は授業終了後に測った。児童へ監視役を頼まず、異常が出れば送信を打ち切る。再試行は二十四時間後と決め、沈黙そのものを脅迫や拒絶へ読み替えない手順も通信台帳に加えた。
壁の電圧と空調値は奈々が別紙へ記し、上昇が三分続けば文章の途中でも回線を閉じる。最初の照合より、校舎内の安全を優先した。
返事の期限を過ぎても敵対判定せず、通信障害、生活作業、再確認の時間を残した。遠距離の相手へ、近くにいる者以上の説明義務を課さない。
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