農家の眠れない計算
【本文】
堀越文は毎晩、芽の数より食料日数を数えていた。地域網十八日、体育館二日、旧小学校三日。畑の最短収穫は六十日以上先だ。
文の視点では、青い葉は希望より借金に見える。土、水、光、人手を使い、まだ一口も返していない。
作業表には、担当者、代行者、使用した水と電力、翌日の確認時刻を記す。働けない者の配給を減らさず、農業班だけへ補助食や権限を集めない。
それでも苗を抜かなかった。短期の食料便を県庁へ求める表と、六十日後の収穫予測を別々に作る。畑で今日の不足を解決したふりをしない。
農業区画へ入る者は靴底を洗い、地上土と血獣粒子を混同しない。採取物には場所と時刻を付け、正体不明の土や水を広い区画へ一度に入れない。
世界の声の予測は参考記録として保存するが、地上の測定と一致するまで在庫や安全判定には使わない。失敗した区画も消さず、原因を次の畝へ渡す。
農家は未来だけを見る者ではない。収穫まで生きる今日を、同じ紙で計る者だった。
成果を食料日数へ加えるのは、収穫し、重量と安全を確認してからとした。育っている途中の命を、帳簿だけで先に食べない。
文は自分の予測を一つに絞らず、病害なし、三割減収、全滅の三表を作った。最良だけを配給計画へ使えば、失敗した日に町が飢える。最悪だけを示せば種を残す同意が得られない。どの条件で表が切り替わるかを、葉数と病株率で決めた。
その日の終わりには、働いた人数だけでなく、休んだ人数、枯れた苗、使わなかった資材も記録した。何も増えなかった一日を失敗として隠せば、収穫予測だけが現実より先へ進む。
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