母が待つ場所
【本文】
千鶴は、市立図書館の駐車場で息子を待っていた。
目の前には返却ポストと植え込みしかない。湊が階段を降りた瞬間、入口は彼女の視界から消えた。手を伸ばしても、指は冷たいコンクリートへ触れるだけだった。
子どもの頃、湊は迷子にならない子だった。買い物へ連れていけば結衣の手を握り、母より先に帰り道を覚えた。だから千鶴は、あの子なら大丈夫だと考える癖がついていた。
幼稚園の遠足で列から遅れた子を連れ戻したときも、中学で豪雨に遭った下級生を家まで送ったときもそうだった。優しさを褒めるたび、湊は自分が戻ることより誰かを連れて帰ることを先に覚えたのかもしれない。
その結果が、誰にも言わず迷宮へ入った四人である。
責めたい気持ちはあった。けれど、収容上限が五人だと知ったとき、湊が最初に数えたのは自分ではなく家族だった。止めるだけでは、また一人で方法を探すだろう。
千鶴は給食センターで使う在庫表を膝に広げた。水、米、塩、燃料。五人が三日暮らす量と、十人が一週間暮らす量を書く。数字にすれば、怖さを仕事へ変えられる。
隣では鉄平が時計を見ていた。五分ごとに無線を呼ぶが返事はない。小春と朔は青い結晶の波形を監視している。
「一時間を過ぎたら?」
千鶴が尋ねる。
「俺が入れるか試す。枠が埋まっていても扉を壊す」
無茶だと分かっていても、誰も笑わなかった。
四十二分後、何もなかった壁に白い線が走った。
千鶴は立ち上がる。
階段から最初に現れたのは湊ではない。泥だらけの制服を着た、見知らぬ女子高校生だった。
少女は誰かを背負い、片手に折れた槍を握っていた。
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