空っぽの農業区画
【本文】
第九迷宮の奥に農業用と表示された空間が開いた。面積は学校の体育館二つ分だが、床は灰色の砂で、土の匂いも虫の姿もない。
堀越文はジャガイモ苗をすぐ移さず、砂を三地点から採取した。小春の観測では窒素、腐植、微生物が不足し、根を支える粒の大きさも揃いすぎている。
作業表には、担当者、代行者、使用した水と電力、翌日の確認時刻を記す。働けない者の配給を減らさず、農業班だけへ補助食や権限を集めない。
世界の声は《農地解放済み》として収穫予測を三十日と表示した。文は地上の畑土を薄く混ぜ、小区画だけで発芽試験を始める。
農業区画へ入る者は靴底を洗い、地上土と血獣粒子を混同しない。採取物には場所と時刻を付け、正体不明の土や水を広い区画へ一度に入れない。
世界の声の予測は参考記録として保存するが、地上の測定と一致するまで在庫や安全判定には使わない。失敗した区画も消さず、原因を次の畝へ渡す。
広さがあっても、作物が育つ時間と土は無から生まれなかった。
成果を食料日数へ加えるのは、収穫し、重量と安全を確認してからとした。育っている途中の命を、帳簿だけで先に食べない。
灰色砂へ水を注ぐと表面だけ固まり、根の深さまで染みなかった。文は粒の異なる砂、腐葉土、地上土を配合した小鉢を十二個作る。苗を植える前に排水時間と保水量を測り、最も数字の良い二配合だけを畝へ広げた。
その日の終わりには、働いた人数だけでなく、休んだ人数、枯れた苗、使わなかった資材も記録した。何も増えなかった一日を失敗として隠せば、収穫予測だけが現実より先へ進む。
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