眠るガンゼ
【本文】
第三迷宮の空槽を三つ失い、ガンゼは循環路の中央で動かなくなった。
封鎖率九十六%という数字だけを見れば、災害は終わったように見える。だが避難所では、食事、水、薬、睡眠、葬送が一日も止まらない。
温泉水は流れているが甲殻温度は平常より八度低い。世界の声は所有権取得による強制起動を勧めた。
記録には成功と失敗を分けず、時刻、担当者、中止条件、翌日へ残る負担を書く。作業できない者の配給を減らさず、代行者だけへ負荷を集めない。
奈々と澪は起動を拒み、生活用温水を半分に減らして循環負荷を下げる。入浴は清拭へ切り替え、患者用だけ温水を残す。
世界の声は早い回復や所有権交換を勧めたが、町は即決しない。本人同意、地上の手順、再検査を先に置く。
冠位個体を休ませるため、人間側も便利さを一時手放した。
代表会議は結論だけでなく、分からない点と見直す時刻も掲示した。勝利の後だからこそ、疲労を勇気、沈黙を同意、空欄を余裕に読み替えない。
設備と人間のどちらかを使い潰して日数を延ばす方法は選ばなかった。
温泉を使えない住民へ、ガンゼが人間を拒んだという説明はしなかった。循環槽の負荷と温度を示し、再開条件を甲殻温度、空槽圧、黒線の三つにする。鉄平は停止中に配管を点検し、休眠を修理の好機として使うが、ガンゼ本体へ工具を触れない。
変更後の担当者は、実行したことだけでなく、見送った作業と理由も次の交代へ伝えた。誰かが戻れば元どおりになる暫定措置ではなく、その人が不在でも続く手順として試す。
再開時刻はまだ決めない。
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