三十秒の循環
【本文】
第三迷宮への迂回路を、十秒から三十秒へ延ばす試験が始まった。
奈々が排水弁、鉄平が防振弁、アクアが地下水門、ガンゼが循環槽を担当する。朔は時刻だけを読み上げ、湊は誰の能力も分配しない。
開始十二秒で第三迷宮の温度が上がる。二十秒でガンゼの甲殻に黒線が走った。中止条件は一つだが、冠位個体の変化は未知のため奈々が停止を決める。
弁を逆順に閉じ、侵食を試験場へ戻さず空槽へ封じる。実運転は二十三秒だった。
封鎖率は四十二%から五十八%へ上がる。ガンゼの黒線は温泉水で薄れたが、空槽の一つが使用不能になった。
世界の声は《冠位個体間の資源譲渡》と表示し、第三迷宮の所有権移転を勧める。
湊たちは拒否する。ガンゼの保守委任を所有へ変えず、次の運転は六時間後とした。
三十秒を達成できなくても、二十三秒で檻は少し閉じた。
成功時間を伸ばすより、壊れず繰り返せる間隔を探す。
停止後、四担当は自分の設備だけでなく隣の弁も確認した。操作成功の思い込みで逆順を間違えないためだ。第三迷宮の温泉供給は生活利用を二時間止め、避難者へ事前に伝える。空槽一つの喪失でガンゼの循環余力は六割へ落ちた。次回運転を急げば第三迷宮そのものが破損する。中央隊は六時間待つ理由を数値で要求し、奈々は温度低下予測と黒線観察時間を示した。休ませるという判断も、感情ではなく再現できる条件へした。
空槽の封印はガンゼ、奈々、相馬の三者記録に残した。中央と地域網のどちらかだけでは開けられない。
次回の開封条件も明記した。温度と黒線が基準へ戻るまで、命令が来ても運転しない。
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