群れをほどく
【本文】
杉沢牛舎の十二頭が、防振床の上でも同時に立ち上がった。
地面の周期を弱めた結果、血獣群体が黒粒子の信号を強めたらしい。首筋の線が再び濃くなる。
文と小春は全頭を一度に救おうとせず、三つの群れをさらに二頭ずつへ分けた。散水、清浄域、防振材を短時間ずつ組み合わせる。
モモを連れていけば早いという声が出たが、広範囲浄化で縮めば医療区画の緊急治療が失われる。モモは地域網に残す。
一頭が暴れ、柵へ角をぶつけた。鎮静剤は残量が少なく、人間用医療にも必要だ。布で視界を狭め、隣の牛の呼吸音だけを聞かせる。
六秒、八秒、ばらばら。二頭が座り、四頭が餌へ向く。
野生鹿には同じ処置ができないため、塩場と防振帯で人の避難路から遠ざける。
世界の声は《従属解除率四十一%》を表示した。所有登録していないのに、解除という言葉だけは現れた。
群れを支配し直すのではない。一頭ずつ違う動きを取り戻すことが、四本目の封鎖になった。
座った牛を成功個体として連続試験へ使わず、その日は観察だけにする。餌、水、糞、耳の動きを別々に記録し、黒線が消えても群れへ戻さない。鹿の誘導先にも集落や水源がないか地図で確認した。追い払う先を変えただけで別の避難所へ危険を渡さないためだ。小春の清浄域は合計二十分で終了し、翌日まで使用禁止。文と牛舎担当が洗浄を引き継ぐ。能力者が離れた後も二頭ずつの動きが保てて、初めて封鎖手順になる。
牛舎担当にも休息を入れ、夜は固定カメラへ切り替える。回復した動物を見守るため人を倒れさせない。
記録を翌班へ渡した。
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