井戸の逆流
【本文】
排水弁を閉じた二時間後、体育館井戸の水位が急に上がった。
行き場を失った圧力が地下亀裂へ回ったのだ。黒粒子は沈殿槽の手前で増え、アクアが水門を閉じる。
奈々は失敗を隠さず全班へ送る。排水封鎖だけでは地下水へ負担が移る。第二班は予定を早め、井戸北側の亀裂へ逆流防止槽を増設した。
体育館の飲用水は再び停止。三十七人増えた避難所で、水輸送を増やせば食料便が止まる。拓郎は一人一日分の飲用を先に配り、洗濯を二十四時間延期する。
中央隊員は《完全浄化》を使えばよいと言った。朔が、使用後に侵入位置を見失った過去記録を示す。
アクアは水門を短く開閉し、圧力を第八迷宮の空槽へ逃がした。永久には保たない。
増設槽が稼働すると井戸水位は下がる。黒粒子は零にならず、検査値は基準の三倍から一・二倍へ落ちた。
水はまだ飲めない。数字が改善しても、安全線を越えるまでは再開しなかった。
水配給所には停止理由、次の検査時刻、現在の備蓄量を同時に貼った。黒粒子という言葉だけが広がらないよう、触れた場合の洗浄手順と、現時点で症状が出た人はいないことも記す。旧小学校から水を回す案は、同地も五日分しかないため採用しない。地域網の輸送車は二便を一便へまとめ、運転者の休息を削らず往復した。検査担当は改善値を見ても拍手せず、別検体と番号を交換して再測定する。一・二倍という結果は二度一致した。
飲用再開の条件は基準以下が二回連続することとした。一度の改善で住民へ安全宣言を出さない。
体育館代表も再検査へ立ち会い、結果を住民へ自分の言葉で説明した。
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