名前を読む夜
【本文】
旧小学校の体育館に、小さな灯りが二つ置かれた。
杉沢で亡くなった男性の名を家族が読み、続いて岩田修の名を妻が読んだ。岩田は死亡確定ではないため、「戻っていない人」として呼ぶ。
川端と杉沢の住民だけでなく、地域網、体育館、病院から代表が参加した。全員を移動させず、白い無線でも同じ時刻に黙祷する。
安西は救助の経過を短く報告した。岩田が誰かを救ったことだけでなく、橋の選択、土砂の予測、救助索、捜索中止の判断も読む。英雄譚へ変えれば、次の団員が同じ危険へ飛び込む。
子どもには「戻れない人」と「まだ見つからない人」の違いを佳乃が説明した。答えられない質問には、分からないと伝えた。
世界の声は《殉職者二名・共同体結束点》を表示した。死亡未確定の岩田まで数え、悲しみを報酬へ変えている。
湊は受領を拒否した。
遺品、写真、記録の保管者を家族と決め、公開してよい範囲も確認する。後の教訓にするからと、全てを町の所有物にはしない。
灯りは予定の一時間で消した。夜間電力を無制限に使わず、それでも二人のために使った一時間を削らなかった。
式へ参加しなかった者にも理由を求めない。川の音を思い出して入れない者、行方不明を死者として扱いたくない者、子どもを寝かせる者がいた。翌朝まで記帳台を残し、言葉を書かず花や石だけ置ける場所も作る。岩田の妻は帽子の写真を祭壇から持ち帰らず、捜索記録の写しだけを受け取った。原本は消防と家族が共同で保管する。町の教訓に使う時も、先に家族へ範囲を確認することになった。
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