残った二人の通信
【本文】
杉沢公民館へ残った家畜担当二人から、夕方の定時通信が来なかった。
高台の待機所にも姿がない。安西は夜間突入を避け、音響札と牛舎カメラを確認する。
映像では牛が一斉に山側を向き、六秒周期が四秒へ短くなっていた。最後の記録には、二人が散水設備を止めようと牛舎へ入る姿がある。
夜明け後、救助班は防振材の道を進む。牛舎入口で一人が倒れ、呼吸はあるが首筋に黒線があった。もう一人は奥で死亡していた。
小春は生存者を清浄域と洗浄で群れから外す。地域網へ運ばず、病院の隔離搬送車へ直接引き渡した。
家族には面会できない時間と連絡時刻を伝えた。隔離を罰に見せず、本人の短い伝言を由香が読み上げた。
死亡者は侵食粒子を拡散させない袋へ収め、本人確認の写真、所持品、発見位置を記録する。家畜を守ろうとした英雄という一文で、規則違反を美化しない。
二人は夕方までに高台へ戻る条件を破っていた。だが責任を理由に葬送や家族説明を減らさない。
牛十二頭は遠隔で散水を再開し、人間を残さず監視する。
杉沢二十二人は、生存二十一人、死亡一人となった。
生存者の黒線は三時間後に薄くなったが、六秒周期の耳鳴りを訴えた。病院は個室隔離ではなく、音と床振動を減らした区画で経過を見る。氏名を血獣感染者一覧として県庁へ送らず、症状と処置だけ共有した。死亡者の所持品には家の鍵、餌の量を書いた紙、家族写真があった。危険物と私物を分け、写真は隔離袋越しに家族確認する。牛舎へ戻る必要は遠隔設備でなくし、残る家畜の命も人間の再突入条件にはしなかった。
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