残る十人
【本文】
川端集会所には十人が残っていた。
岩田を失った橋を渡りたくない者が三人、家族が捜索から戻るまで動けない者が二人いる。避難を急がせれば、途中で動けなくなる。
奈々は別経路として、農業用水路を二百メートル上流で一時的にせき止める案を出した。水位を下げ、川底へ仮設板を渡す。ただし下流の田と沈殿槽へ影響する。
川端住民と体育館代表を交え、二時間だけ止めることに合意した。開始と終了を無線で共有し、下流側にも見張りを置く。
低姿勢ゴーレム二体が板を支え、十人は一人ずつ渡った。岩田の妻は最後まで川を見ていたが、捜索継続を条件に歩き出した。
渡河後、五人は体育館、三人は旧小学校、骨折者と体調不良者は病院へ移す。地域網には入れない。
到着者へ岩田の件を入口で一斉説明せず、家族ごとに知っている範囲を確かめて話した。噂が先に広がらないよう、確認済みの事実だけを両避難所へ掲示する。
川端二十三人の避難は完了した。生存者は二十二人、岩田は行方不明。
全員の現在地も確認した。
水路を元へ戻し、下流の流量と黒粒子を確認する。避難できた人数だけで成功とせず、使った経路を次の暮らしへ返す。
仮設板は撤去せず、高い場所へ番号付きで保管した。再避難や物資回収に使う可能性があるが、常設橋と誤認されないよう入口を封鎖する。水路停止で沈殿槽の粒子量が一時増えたため、奈々は体育館井戸の飲用を六時間止めた。川端から来た者へも、避難のせいで水を止めたと責任を負わせない。経路を選んだのは代表会議であり、影響も共同で引き受けると掲示した。
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