見つからない身体
【本文】
翌朝、岩田の捜索を再開した。
家族は体育館へ避難していた。妻は自分も川へ行くと言ったが、安西は危険区域へ入れない。代わりに捜索範囲、人数、中止条件を地図で説明した。
下流三キロで、岩田の消防団帽と片方の手袋が見つかる。本人の身体はない。黒い粒子が多く、水中へ人を入れられなかった。
世界の声は死亡判定を出さず、《所在不明》のままにする。名簿も、死亡へ勝手に変えない。
真理は「行方不明・生存確認不能・最終確認時刻」を分けて記す。家族が死亡届に相当する扱いを望むかは、行政手続きと葬送を別に相談する。
帽子と手袋は洗浄せず、乾燥箱へ封じた。侵食粒子の危険があるため妻へ直接渡せない。写真と発見場所の記録を先に見せる。
川岸へ立入禁止札を置き、捜索を手伝いたい住民には映像確認と地図整理を頼んだ。危険へ入ることだけを参加にはしない。妻は確認会へ出席し、無人カメラの位置を一つ選んだ。
捜索は正午で打ち切り、音響札を下流へ一つ残した。見つけられなかった事実も、捜し続けられない理由も消さない。
遺体がないから、別れまで存在しないことにはできなかった。
妻は捜索中止へすぐ同意できなかった。安西は説得で終わらせず、黒粒子濃度が下がれば再開する区域、無人カメラで継続する区域、今は入れない区域を色分けした。音響札が人の声や金属音を拾った場合は、夜間でも二人が記録を確認する。ただし救助班の出動は夜明け後とする。帽子の内側に書かれた名は写真で確認できた。所持品目録には、見つかっていない物も空欄ではなく「未発見」と記した。
(次話へ)




