戻らなかった消防団員
【本文】
川端の残る十一人を迎えに行った午後、上流で地鳴りがした。
管理橋を渡っていたのは、消防団員の岩田修と、車椅子の女性、前後を支える二人。岩田は川端側で手すりを確認していた。
斜面から流木と土砂が落ち、橋の端が沈む。ゴーレムは固定帯で止まったが、川端側の足場が崩れた。
岩田は女性を地域網側へ押し戻し、自分は流木に挟まれた。岳が《荷重固定》を分けようとしたが、湊の《分配》はまだ使用禁止。岳単独では橋と流木の両方を止められない。
安西が救助索を投げる。岩田は掴んだが、黒い水が膝まで上がり、流木が再び動いた。
三分後、足場ごと濁流へ落ちた。
救助索の長さ、流木の重さ、橋の沈下時刻も残す。岩田の最後の言葉は誰も正確に聞き取れず、推測の台詞を記録に加えなかった。
下流班が二キロを捜索したが、日没までに見つからない。世界の声は《救助失敗・危険度加算》とポイントを表示した。
安西は受領を拒否し、時刻、位置、救助手順、最後に確認した姿を記録する。
川端の十人は集会所へ戻し、夜間の再救助を中止した。
一人を失った直後だからこそ、残る人を同じ川へ入れなかった。
車椅子の女性は対岸へ着き、低体温と擦過傷だけで命に別状はなかった。岩田の行動を感謝として記録する一方、橋端の監視員が一人だったこと、上流の地鳴りを検知できなかったことも事故欄へ書く。誰かの勇気だけを原因にすれば、設備と人数の不足が消える。岳は自分が能力を分けられなかったと責めたが、使用禁止は医療判断であり、破れば二人目の患者を作った可能性がある。安西はその点も報告へ明記した。
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