血の道を避ける
【本文】
杉沢から二便目を出す朝、県道に鹿の群れが立っていた。
七頭が同じ向きで動かず、首筋に黒線がある。車で近づけば群れを刺激し、血獣の中心へ誘導される可能性がある。
世界の声は《従属獣七体》の討伐を指示した。湊たちは攻撃せず、前日に作った防振材を道路へ帯状に敷く。
先頭の鹿が六秒周期から外れ、耳を動かした。残る六頭も少しずつ向きを変える。文が塩を離れた場所へ置き、人間の避難路と反対へ誘導した。
道路には黒い液体が細く続き、閉鎖試験場へ向かっていた。奈々は車輪が踏まない位置へ白線を引く。
二便目の車両は遠回りし、燃料を予定より十四リットル多く使った。残量は十日分へ減る。
追加分は共同の救助費として記し、杉沢へ返済を求めない。遠回りを決めた者と運転者が別々に署名した。
杉沢から五人が移動し、公民館には家畜担当二人だけが残る。二人には毎日夕方までに高台へ戻る条件を付けた。
鹿を倒さなかったため移動は三時間遅れた。それでも動物の死体と黒い液体を避難路へ増やさずに済んだ。
記録も残した。
速い道が、血獣の作った道なら使わない。
移動後、白線の内側へ黒い液体が一本増えていた。車輪の記録写真と照合すると、避難車ではなく鹿が横切った跡だった。消毒液を大量に撒かず、汚染土だけを浅く回収して冷却容器へ入れる。世界の声は討伐しなかった七頭を逃走扱いにしたが、警戒台帳には誘導成功と記す。残留二人の高台到着も夕方に確認し、通信担当が時刻へ署名した。予定より遅れた救助便と、安全条件を守った残留を同じ記録に残した。
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