檻の中の心臓
【本文】
閉鎖試験場の地下から、初めて輪郭のある反響が返った。
巨大な一体ではない。排水槽、牛房、地中亀裂へ分かれた複数の塊が、六秒ごとに同時収縮している。試験場全体が一つの心臓のようだった。
朔は《血獣型冠位個体》ではなく、《血獣群体・形成中》と台帳へ記す。本体が完成しているとは限らない。
保守音声は《地上隔離槽、封鎖率六十二%》と告げた。冷たい世界の声は《冠位出現まで残り十三日》と表示し、先制討伐へ高得点を付ける。
二つの情報が正しければ、十三日後に起きるのは誕生ではなく、隔離槽の破損かもしれない。
湊たちは試験場を攻撃しない。排水、水脈、動物の移動、地面の振動を先に切り分ける。県庁の相馬へ危険区域を送り、周辺集落の人数と避難経路を照会した。
地域網の食料は二十一日、体育館六日、燃料十一日。観測と水輸送にも在庫を使っている。
中央からは、冠位個体を徴発戦力で討伐するという返信が届いた。到着時刻は書かれていない。
夜、試験場の黒い膜が一斉に収縮する。牛舎の十二頭が同時に顔を上げたが、防振床の上で列には戻らなかった。
檻にいるのは獣ではない。町と山を血管に変え、今から体を作ろうとする心臓だった。
相馬から届いた周辺集落の集計は三か所、合計六十四人。うち一か所は道路が血獣の推定中心を通り、通常の車両避難が使えない。湊たちはすぐ収容を約束せず、体育館、病院、地域網の空きと水、食料を分けて確認する。救援は次の十二話の課題になる。まず避難先を一つに集めず、集落ごとの安全な待機場所と通信時刻を決める。十三日という期限を、無理な突入の時計ではなく、生活圏を切り離す準備時間として使うことにした。
(次話へ)




