井戸を捨てない
【本文】
体育館井戸から、黒い粒子が三日連続で検出された。
飲用停止を続ければ、地域網からの水輸送が増え、食料搬送が一日一便減る。井戸を完全封鎖すべきという意見が出た。
奈々は検出地点を重ね、井戸北側の地中亀裂へ絞る。閉鎖試験場の排水槽から伸びる線と一致した。
アクアに全てを浄化させず、亀裂の手前へ沈殿槽を掘る。黒い粒子を一時的に集め、地上の容器へ回収する構造だ。
工事中も井戸水は飲まない。洗浄用途は検査値ごとに許可し、皮膚や食器へ触れる用途を分ける。
拓郎は体育館の住民へ、井戸を守るため水制限があと二日延びると説明した。便利になった設備を一度止めることも、管理の一部である。
翌朝、井戸直前の粒子は零になった。沈殿槽には黒い膜が薄く脈打っている。
膜を焼却せず、第六迷宮の冷却容器へ封じる。熱を与えた時の反応が不明だからだ。
井戸は濾過と煮沸を条件に、飲用を半量だけ再開した。
次の採水は六時間後に行う。再開後も、飲用容器と洗浄容器の区分はそのまま維持した。
水源を捨てずに守れたが、血獣の脈は止まっていない。町へ届く一本を、途中で受け止めただけだった。
沈殿槽の回収容器は一日で五分の一まで満ちた。増加速度が同じなら五日で交換が必要になる。奈々は容量だけを増やさず、試験場側の排水を止める期限として記録した。容器交換は防護具二人、記録一人、遠隔ゴーレム一体で行い、満杯まで待たない。体育館の掲示には飲用再開と同時に、まだ半量である理由も残す。検査が零だった一回を、問題解決の宣言には使わなかった。
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