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世界の声が鳴る前に、俺たちは十のダンジョンを攻略していた――崩壊した日本で家族を守る高校生たちの拠点防衛記  作者: 竜太郎


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閉鎖試験場

【本文】

 畜産試験場は、世界公開前から五年間閉鎖されていた。

 古い地図では地下に飼料庫と排水槽がある。ダンジョン登録はないが、六秒周期の中心はその下を示していた。

 安西、奈々、澪、朔が日中だけ偵察する。湊は過負荷のため地域網で休む。

 正門は内側から曲がり、舗装には蹄の跡が円を描いている。建物内へ入らず、ドローンを低空で飛ばした。

 映像には空の牛房と、壁へ張りついた黒い膜が映る。膜は呼吸するたび膨らみ、排水溝へ血管のような線を伸ばしていた。

 世界の声は施設を《未所有迷宮候補》と表示する。一方、澪の第二迷宮から届く保守音声は《地上隔離槽・破損》と警告した。

 新しい迷宮が生まれたのではない。地上施設が侵食を溜める容器へ変わりつつある。

奈々は排水路の出口を地図へ記す。体育館井戸へ続く地下水脈とは百八十メートルしか離れていない。

職歴照会の返答までは再侵入を完全に禁止した。

 偵察隊は膜へ触れず撤退した。帰還後、靴底と車輪を区画内で洗浄し、汚水を封印する。

本体を見つけたとは言えない。見つけたのは、本体が町へ根を伸ばす入口だった。

帰還者四人は生活区画へ直行せず、第六迷宮前の隔離室で二時間待機した。小春が遠隔で衣服、体温、皮膚の黒線を確認する。澪の靴底から微量の粒子が出たが、洗浄後は検出されない。《遅延再生》へ触れた反応もない。偵察の成功を理由に同じ班を翌日また出さず、映像と地図だけを別の担当へ引き継ぐ。試験場を知る元職員がいないか、県庁と体育館の生存連絡票を氏名ではなく職種で照会した。

(次話へ)

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