夜の歩幅
【本文】
深夜、四つの音響札が同時に反応した。
入口へ近づく足音ではない。山腹を横切り、一定の円を描いて戻る。歩幅は鹿より広く、熊より軽い。
朔は音を一つずつ聞かず、時刻を重ねた。複数の足音に見えたものは、同じ振動が別地点へ順番に伝わっている。一頭が走っているのか、群れ全体が同じ足を持つのか判断できない。
見張り班は追跡を求めたが、安西は夜明けまで待つ。暗所で山へ入れば、音の正体より救助対象を増やす。
警戒粘体は配置ごとに赤、黄、青へ分かれた。以前なら誤作動として片づけた反応だが、個体差を記録していたため、山側の二体だけが赤いと分かる。
夜明け後、巡回路に足跡はなかった。代わりに木の幹へ、地面から二メートルの高さまで黒い擦過痕が続いている。
岳が触れずに定規を当てると、痕は一晩で少しずつ上へ移動していた。
血獣は姿を見せず、振動と汚染だけを群れのように動かしている。
巡回地図には安全な帰還限界線も太く描いた。
音響札の範囲を広げる前に、既存四点の電池と回収経路を確認した。観測網を増やして、交換する人を危険へ送らないためだった。
木の擦過痕には、獣毛も皮膚片も付いていない。黒い粉だけが重力に逆らい、幹の上へ移動していた。採取袋へ入れると動きは止まり、袋を地面へ置くと山側へ偏る。小春は生物組織ではなく、群れの方向を伝える標識かもしれないと考えた。巡回班は痕を削らず、周囲へ白い紐を張る。消せば別の木へ移る可能性がある。翌夜も高さを測り、本体の接近ではなく信号の変化として追うことにした。
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