山から消えた声
【本文】
査察隊が去った翌朝、山から鳥の声が消えた。
静かなだけなら天候の変化もある。朔は異常と決めず、第一迷宮入口の録音を過去七日分と比べた。午前五時から七時の鳴き声は、前日の三分の一。風速と気温に大きな差はない。
警戒粘体は赤くならず、薄い黄を保っていた。人間でもゴーレムでもない振動が、遠くで続いている。
安西の巡回班は入口から五百メートル以内だけを調べた。追跡のため森の奥へ入らず、帰還時刻を先に決める。
獣道には鹿の足跡が重なり、全て山の下へ向かっていた。熊の爪痕も新しい。動物が何かから逃げている可能性がある。
世界の声は《野生個体群の討伐依頼》を表示し、逃げる動物までポイント対象へ含めた。
湊は受領しない。病気や火災で移動しているだけかもしれず、原因を見ずに数を減らせば森の変化を隠す。
翌朝の確認時刻も皆へ掲示した。
巡回範囲へ音響札を四つ置き、夜間は人間を増やさず記録する。見張り班の休息規則も変えない。
夕方、最も山側の札へ、低い呼吸音が入った。一頭分ではない。同じ間隔で、複数の喉が一つの肺のように息をしていた。
録音を食堂で流すことはせず、見張り班と観測担当だけが聞いた。住民へは鳥獣の移動異常と、夜間の山道禁止を掲示する。理由を隠さない一方、正体の分からない音を恐怖の材料にも使わない。音響札の電池は残り六日。交換担当と時刻を先に決め、異常が続いても夜中には回収しない。体育館側にも同じ注意を送り、家族捜索のため単独で山へ入らない代替として、橋の連絡所で照合依頼を受け付けた。
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