働くスライムは兵器か
【本文】
査察二日目、戸倉は生活スライムを戦闘可能個体として数え始めた。
警戒、冷却、運搬、濾過。能力を持つ以上、中央の指定拠点で使えるという判断だった。
生活班は、個体ごとの仕事、休息、濁り、事故歴を記した台帳を示す。排水路事故から回復途中の清掃粘体もいる。移送すれば、体育館の水質と地域網の衛生が落ちる。
戸倉は三割だけなら運用を維持できると言った。
小春は、同じ種類でも体積、反応速度、疲労が違い、三割という頭数では能力を計算できないと説明する。モモを標準個体にもできない。
その時、運搬粘体が査察資料の箱を持ち上げきれず、平たくなった。子どもの世話係が停止札を置き、人間二人で箱を下ろす。
演技ではない。昨日の仕事から休息が足りなかった個体を、戸倉が実演のため呼び出した結果だった。
事故記録には、無理な実演を求めた査察側の指示も書かれた。相馬が立会人として署名する。
戸倉は生活スライムの即時徴発を保留した。ただし中央判断へ持ち帰るという。
兵器ではないと口で言うだけでなく、生き物として管理してきた記録が、初めて外部命令を止めた。
生活班は実演後、平たくなった個体を要観察箱へ移した。餌を与えてすぐ働かせず、体積と反応を二時間ごとに測る。戸倉にも観察票の写しを渡し、徴発後に同じ管理ができるか質問した。指定拠点には待機箱、水質区分、世話係、低濃度ポイントの供給計画がない。単なる輸送数では答えられない条件だった。査察要領の「戦闘個体」欄には、生活維持生物、移送不可、中央再評価と追記された。
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