百二十人の上限
【本文】
査察官は管理画面の収容上限百二十人と、住民百四十九人の数字を並べた。
「二十九人の超過を隠している」
湊たちは、迷宮機能上の登録者百二十人と、避難通路を使わない地上連携者、臨時病床、作業交代者の現在地表を示す。百四十九人全員が同じ区画で寝ているわけではない。
戸倉は体育館九十三人も足し、総収容二百四十二人と記録しようとした。
拓郎が体育館の寝床表、井戸担当、食料八日分の帳簿を机へ置く。体育館は地域網の倉庫ではなく、独自の代表と設備を持つ避難所だ。
相馬も県庁の暫定登録が「連携避難圏」であり「単一施設」ではないと証言する。
査察側の数字を減らすだけでは、支援対象まで減る危険がある。そこで二施設の人数を別に記し、物資要請では合計、収容能力では個別に扱う注記を加えた。
戸倉はすぐ承認しなかったが、二百四十二人という一行を消した。
名簿は人を数えるために必要だ。しかし目的の違う数字を足せば、徴発できる余裕にも、存在しない寝床にも変わる。
住民たちは、自分たちの町が一つの数字へ潰される場面を黙って見ていた。
次に戸倉は空き寝台一つを余剰収容能力として記録した。真理は、感染隔離や急患のための予備であり、常時埋められる寝床ではないと説明する。空いていることと余っていることは違う。査察表には通常収容、緊急一時収容、医療隔離、外部避難所を別欄にする修正案が加わった。中央様式を現場で変更する権限は戸倉にないが、注記として添付はできる。数字を拒絶するのではなく、使い方が分かる形へ細かくした。
(次話へ)




