当番を断る
【本文】
夜間見張りの当番表から、一人が直前に名前を消した。
理由は書かれていない。代行者はいたが、同じ区画の住民から無責任だという声が上がる。
佳乃が本人と別室で話すと、前夜の影獣襲撃を思い出し、入口に立つだけで呼吸が乱れるという。医療区画へ行くことも、皆に知られることも望んでいなかった。
当番規則には、開始前でも断れること、理由を公開しなくてよいこと、代行者へ直接頼まず調整窓口を通すことを加えた。断った回数を配給や次の希望へ影響させない。
一方で、無断で持ち場を離れれば警戒に穴が開く。緊急時は白い無線か近くの警戒粘体へ札を置き、交代が来るまで安全区画へ下がる手順を作る。
見張り班は二人一組。片方が不調でも、もう片方が連絡できる。
窓口担当にも相談内容を外で話さない守秘規則を置いた。噂で理由を推測し、本人へ確かめに行く行為も止める。事情を説明できる者だけが休める仕組みにはしない。
欠員を埋めた誠は、断った本人の名を聞かなかった。翌朝、当番表には「代行使用」とだけ残る。
責任を持つことと、限界まで耐えることは同じではない。断れる仕組みがあるから、体調を隠して入口へ立つ危険を減らせた。
代行者ばかりに負担が集まらないよう、月ではなく七日単位で回数を数える。ただし回数が少ない者を自動で次の当番にはしない。育児や治療など、表に出さない事情があるからだ。調整窓口は二人で担当し、片方だけが理由を知っていても組める表を作る。本人が望めば、見張り以外の昼間仕事へ移れる。断った穴を別の形で必ず埋めろとは求めないが、戻りたい時の入口は閉じなかった。
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