町の名簿
【本文】
第三部の始まりは、住民を数え直すことから始まった。
県庁向けの生存連絡票とは別に、地域網で暮らすための名簿が必要だった。寝床、食事、薬、避難介助、できる仕事、できない仕事。全てを一枚へ書けば便利だが、誰にでも見せられる情報ではない。
真理は名簿を三つに分けた。配給所には人数と食事区分、医療区画には治療情報、避難班には移動時の介助だけを置く。氏名と連絡先をまとめた原本は鍵付き箱から出さない。
番号だけでは人を物のように扱うという声も出た。そこで日常の呼びかけは名前、帳票の照合は住民番号とし、番号を呼んで列に並ばせない規則にする。
体育館九十三人は地域網百四十九人へ足さない。二つの避難所に出入りする医療患者と作業員には、所属ではなく現在地を記す移動札を渡した。
最初の照合で、地域網の表に同じ人が二重登録され、逆に三人が抜けていた。いずれも病院との移動日が原因だった。
名簿は完成品ではない。毎夕、各区画の人数だけを照らし合わせ、個人の移動理由は必要な担当者だけが確認する。
町になるとは、全員の秘密を一か所へ集めることではなかった。
移動札にも問題があった。首から下げれば患者だと周囲に知られ、寝床へ置けば避難時に忘れる。札は色を使わず、本人だけが意味を知る番号とし、各出口の読み取り表は担当者が持つ。紛失時は古い番号を無効にして再発行する。名簿係にも閲覧範囲を設け、家族だから、友人だからという理由では原本を開けない。逆に本人は自分の記録を確認し、間違いを訂正できる。誰が住民かを決める表ではなく、必要な支援を本人へ戻すための表にした。
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