徴発という命令
【本文】
中央再建評議会から、仮登録施設への追加命令が届いた。
『余剰収容能力、迷宮産資源、戦闘可能個体の三割を指定拠点へ供出せよ』
地域網の空き寝台は一つ。迷宮産資源と呼べる物の大半は、地上から持ち込んだ素材を再生した物だ。生活スライムは戦闘個体ではなく、移送すれば水と衛生が止まる。
それでも命令文は、G-17を収容二百四十二人、稼働迷宮十基、戦力多数と計算していた。体育館九十三人を地域網の内部収容者として重複し、冠位個体も全て所有戦力に数えている。
相馬は県庁から訂正を送った。上司も、誤った数字で徴発すれば患者が死ぬと署名する。
御厨名義の回答は短かった。
『非常時には中央集約を優先する。詳細は現地査察後に修正する』
査察隊の到着予定は四日後だった。
代表会議は徴発を黙って拒まず、物資ごとの所有者、必要量、移動不能理由を公開表にする。出せない物だけでなく、井戸設計図や医療手順など提供できる情報も示す。
命令が間違っているからと、全ての協力を止めない。同時に、中央という名前だけで現場の数字を上書きさせない。
湊は十基の冠位個体へ、外部命令では所有権を変更しない保守規則を再確認した。
ガンゼたちは人間の文書を理解しないが、設備の移設命令には反応した。世界の声が《行政徴発》を所有者命令として代行しようとしたためだ。湊と澪が否認すると処理は止まる。朔は画面を録画し、相馬へ送った。紙の命令が迷宮機能へ直接届くなら、査察隊が来る前から影響は始まっている。各迷宮は、二人以上の確認なしに物資と個体を外へ出さない設定へ切り替えた。
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