薬を運ぶ列
【本文】
県庁から受け取った抗菌薬を、県立病院へ運ぶ日が来た。
箱は小さいが、冷所保存が必要だった。セレネの冷却粘体を外へ連れ出すと地域網の薬品庫が弱くなるため、保冷箱と温度計、交換用の氷を使う。
経路は橋を避けた十八キロ。消防車を使えば速いが、燃料と目立つ車体が問題になる。小型車二台へ分け、片方が止まっても全量を失わないよう薬も半分ずつ載せた。
途中、道路を塞ぐ倒木で予定が遅れる。温度上限まで残り四十分。岳が切断し、安西が周囲を警戒する。湊は領域外なので能力で道を直せない。
病院到着時、片方の箱は上限より一度高かった。薬剤師は記録を見て、使用可能時間を短縮する。届いたから全て成功とはしない。
薬は患者六人へ割り当てられた。氏名は県庁へ送らず、投与数と副作用だけを返す。
帰りの車には、病院で余っていた透析用の消耗品と手書きの患者搬送手順を載せた。空車で戻らない。
地域網へ着くと燃料残量は十三日分へ減っていた。命を繋いだ距離も、在庫から消えた量も、同じ運行記録へ残された。
投与開始後、一人に発疹が出たとの連絡が入る。由香は副作用記録を県庁と薬剤師へ返し、同じ薬を送った別避難所にも注意を回してもらう。患者名は不要だったが、投与時刻、年齢層、症状、処置は必要だった。情報を隠すことと、治療の失敗を隠すことは違う。運んだ薬がどう使われたかまで戻ってきて、初めて支援の往復が閉じた。
保冷箱は洗浄後、次の搬送へ備えて乾かした。氷の使用量と交換時刻も記録し、次回は一組多く積む。運転した二人は翌日の救助当番から外された。車が戻っても、人の集中力と睡眠は満タンにはならない。
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