名前より先に必要なもの
【本文】
地域網へ届いた相馬の返信には、命令への謝罪も、服従の要求もなかった。
必要物資、搬送可能路、重症者数。それなら個人名を出さずに答えられる。
代表会議には病院、体育館、地域網から二人ずつ参加した。由香は重症者を病名ではなく、酸素継続三人、透析移送一人、抗菌薬不足六人と分類する。拓郎は体育館の水と食料日数を報告した。
湊の所有者情報については、氏名を伏せて「十基接続の管理担当、未成年」とだけ書く案が出る。
長谷川誠は、未成年と書けば逆に絞り込まれると指摘した。学校名や家族構成と組み合わされれば、名前がなくても分かる。
朔は送る項目を三段階に分けた。今すぐ共有する集計、支援が確定した後に共有する担当情報、本人同意があっても送らない能力詳細。
県庁を信用するかではなく、漏れても被害を限定できる形にする。
世界の声は《完全登録で配給優先度上昇》と表示した。ポイントだけでなく行政支援まで競争へ変えようとしている。
会議は表示を記録し、登録の判断材料から外した。
最初の回答には、人数の概数、必要な薬、通れる道路、受け渡し可能地点だけを書く。
名前より先に、助けるため本当に必要な情報を送ることになった。
送信前、各代表が自分の担当欄だけを再確認した。湊は道路を知らず、薬の適否も決められない。所有者だから全項目へ署名する形にはせず、医療は由香、道路は安西、水は奈々、避難所数は拓郎が責任者になる。誤りが見つかった時、誰へ聞けば直せるかを明確にするためだ。県庁への窓口は一本でも、判断まで一人へ集めなかった。
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