手で回す時間
【本文】
蓄電池も迷宮設備も止まった場合に備え、完全停電訓練を行った。
医療区画では手動呼吸器、体育館では手押しポンプ、通信班では足踏み発電機を使う。事前告知は担当者だけに留めた。
開始直後、手押しポンプの担当が一人しかいないことが分かった。交代できなければ十五分で疲れる。体育館から三人が加わり、五分ごとの交代表を作る。
足踏み発電機は無線一台を動かせたが、送信中は照明が消える。冬一は通信時刻をまとめ、受信だけの時間を長くする。
医療区画では手動呼吸器の速度が人によって違った。由香が患者ごとの回数を読み上げ、交代時に必ず復唱させる。
一時間後、訓練は終了した。
設備は全て動いたが、人間の疲労は想定以上だった。完全停止を何時間も耐えられる状態ではない。
奈々は合格印を付けず、交代要員と休憩場所を増やす課題を残した。
電気の代わりに人間を無限に使うことも、解決ではなかった。
訓練中、暗闇を怖がった子どもが通路へ飛び出した。床灯は点いていたが、普段と違う音に驚いたのだ。佳乃が区画ごとに声掛け担当を置き、停電時には同じ短い言葉で状況を伝えるよう決める。設備が動いても、人が混乱すれば避難路は塞がる。次回は手動機器だけでなく、寝床から動かず待てるかも確認項目へ加える。
手動機器のそばには使い方を絵で貼り、担当者が来るまで誰でも最低限の操作を始められるようにした。
訓練後、参加者の手には豆ができ、足踏み担当は膝の痛みを訴えた。由香は全員を診て、次回の担当から外す者を決める。代行者を増やすため、短時間の練習を毎日別の人へ行うことになった。一度できた人へ任せ続けず、できる人を少しずつ増やす。それが停電を耐える本当の予備だった。
(次話へ)




