水門蛇の支流
【本文】
第八迷宮から体育館井戸まで、地下水脈は三百メートル離れていた。
アクアの水路を直接繋げば早い。しかし地盤を掘り抜けば、住宅や道路が沈む危険がある。
奈々は地上の古い水道管を利用した。破損して使われていない支管へ迷宮側の濾過路を重ね、井戸へ入る直前だけ黒い粒子を分離する。
工事には人間の配管班と小型ゴーレムが入る。狭い場所では人型を使わず、鉄平が多脚の点検型へ改装した。
作業中、アクアが突然水門を閉じた。工具が一つ流路へ落ち、下流の弁へ引っかかる危険を察知したためだった。
ゴーレムは作業を続けようとした。命令された工程を終えることしか知らない。奈々が緊急停止札を見せ、全機を戻す。
工具を回収し、流路内の残留物を確認してから再開した。
二日後、井戸の濁りが薄くなる。黒い粒子は検出されない。微生物と金属分は残るため、濾過と煮沸は必要だった。
体育館では、飲用、調理、洗浄を色の違う容器へ分けた。
井戸水は奇跡の水ではない。手順を守れば使える、地上の新しい水源になった。
点検型ゴーレムの脚には、配管を傷つけない柔らかい覆いを付けた。狭い流路で方向転換できず、一度は後退にも失敗する。鉄平は胴を短くし、工具を腹側へ収納する形へ直した。人間が入れない場所で働けても、止まった機体を回収できなければ新しい詰まりになる。作業前には帰還経路の幅まで測る規則が加わった。
完成後の図面には迷宮部分と地上配管を違う線で描き、どちらを止めれば安全に修理できるか明示した。
図面の写しは体育館にも置かれた。
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